|
ハードディスク用磁気記録媒体の新たな作製技術を開発-磁気記録の超高記録密度化を実証-
|
2009年8月5日
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
理事長 村田 成二
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
理事長 村田 成二
NEDOの委託により、(財)次世代金属・複合材料研究開発協会(RIMCOF)を中心とする研究グループは、金属ガラス(1)薄膜へ熱インプリント (2)技術を適用することにより、ハードディスク用磁気記録媒体(3)の新たな作製技術を開発し、1平方インチ当り1テラビット(4)以上の磁気記録媒体として利用できることを実証しました。2011年度のプロジェクト終了の後に、開発した記録媒体を搭載したハードディスク用磁気記録媒体の実用化を目指します。
記
1. 開発のポイント
ハードディスク用磁気記録媒体の超高密度化に向けて、ナノ(5)メートルレベルの大きさの磁性粒子を高密度に集積したパターンドメディア(6)の開発が注目されています。今回、粘性流動加工(7)の容易な金属ガラスと、金型による転写技術である熱インプリント技術を組み合わせ、記録密度(8)が1平方インチ当り1テラビット以上の記録密度媒体として利用できることを実証しました。具体的には、新規に、加工技術とエッチング技術を組み合わせて、ナノパターンを転写加工するための超微細(ドット径(9)12nm、ドットピッチ(9)25nm:世界最高水準)パターン金型(図1参照)を作製することに成功しました。また、この金型を用い金属ガラス薄膜に同様サイズのナノパターンが転写できることを実現しました(図2参照)。さらに、個々に形成された磁性粒子が磁気記録素子として機能することを実証しました。このような、パターンドメディアの作製方法は、他の手法に比べて大幅に製造コストを削減できると期待されています。
| 図1 開発したドット径12nm、ドットピッチ25nmの超微細(世界最高水準)パターン金型 | 図2 微細パターン金型を用いて金属ガラス薄膜上に形成したドット径12nm、ドットピッチ25nmの超微細パターン |
2.プロジェクトの概要
パーソナルコンピュータ、ハードディスクレコーダ、カーナビ、携帯音楽プレーヤをはじめとするIT機器の高機能化・高速化に伴い、取り扱うデータサイズが近年ますます大きくなっています。しかしながら、IT機器の小型化も同時に進み、同じ大きさでより多くの情報を記録できる高記録密度素子が求められています。ハードディスクドライブ(HDD)に代表される磁気記録媒体の記録方式(補足資料の図3および図4参照)は、記録密度150Gb(10)/in2以下の面内磁気記録(11)・連続媒体方式から、現在の主流となっている記録密度100~800Gb/in2の垂直磁気記録(12)・連続媒体方式、近い将来に主流となる見込みの記録密度600Gb/in2~2Tb/in2の垂直磁気記録・ディスクリートトラック方式(13)、さらに1Tb/in2を超える次世代の高密度技術としてパターンドメディア方式へと移行していくと考えられています。パターンドメディアは、人工的に規則正しく磁性粒子を並べたもので、超高密度化が可能であり、しかもそれぞれの磁性粒子が一定の距離を保って独立しているので、熱揺らぎ(14)の影響を受けにくいと期待されています。現在のパターンドメディアは、スパッタ(15)膜のエッチング、ナノホール(16)形成、イオン注入(17)等の作製方法が検討されていますが、何れの方法も、高記録密度化を達成するためのパターンの超微細化やパターンの位置精度および複雑な製造工程によるコストアップ等の面で課題は多く残されています。
一方、金属ガラスは、通常の金属と異なり結晶粒が無く(補足資料の図5参照)、加熱することにより軟化するために(補足資料の図6参照)、金型を押し付けるだけで超微細パターンを正確かつ短時間で転写できます。このため、微細パターンの転写が可能な金属ガラスと記録に適した磁気材料を組み合わせた複合化金属ガラスを用いて高密度磁気記録媒体を高精度かつ低コストで作製できる可能性があります。
以上のような背景を踏まえ、「高機能複合化金属ガラスを用いた革新的部材技術開発」プロジェクトでは、複合化金属ガラスを用いた高密度磁気記録媒体を実現するために、転写加工に必要な超微細パターンをもった金型の作製、超微細パターン転写が可能な金属ガラス薄膜の作製、超微細パターンを金属ガラス表面に転写する熱インプリント技術(補足資料の図7参照)等の新たな開発を目標としています。
結果、サファイア(Al2O3)上に堆積させたダイヤモンドライクカーボン(DLC)薄膜に、集束イオンビームデポジション(18)で白金(Pt)を堆積させ、これをエッチングマスクとして用いてドライエッチング(19)により超微細パターンを彫り込む金型作製方法(補足資料の図8参照)を新たに開発し、ドット径12nm、ドットピッチ25nmで高アスペクト比(高さのある)の超微細パターン(世界最高水準)金型を作製することに成功しました。また、パラジウム(Pd)を主成分とする金属ガラス薄膜(厚さ20 nm)を加熱し、開発した高アスペクト比超微細パターン金型を押し付ける(プレス時間:10秒)ことにより、ドット径12nm、ドットピッチ25nm(記録密度:1Tb/in2相当)の超微細パターンを転写することに成功し、熱インプリントによる高効率ナノ転写加工技術を確立しました。さらに、微細パターン上に磁気記録層としてはたらくコバルト/パラジウム多層膜を成膜した試料について、ナノパターン状に孤立した磁気記録ドットが単磁区(20)で磁化反転(21)することを確認し、開発したパターンが高記録密度の次世代磁気記録媒体として利用できることを実証しました。
3.お問い合わせ先
(本プレス発表の内容についての問い合わせ先)NEDO ナノテクノロジー・材料技術開発部 土井、木場
TEL 044-520-5220
(その他NEDO事業についての一般的な問い合わせ先)
NEDO 広報室 坂本、萬木(ゆるぎ)
TEL 044-520-5151
<研究開発グループ>
RIMCOF、東北大学金属材料研究所(井上明久 東北大学ユニバーシティープロフェッサ、早乙女康典 教授、牧野彰宏 教授)、大阪大学産業科学研究所(石丸学 准教授)、中央大学理工学研究所(二本正昭 教授)、(株)BMG
(※)用語の解説
- (1)金属ガラス:
金属元素を構成の主成分とする合金で、結晶構造をもたず明瞭なガラス遷移現象を確認できるもの。ガラス遷移を発現するガラス遷移温度以上で固体から過冷却液体状態に遷移し、この温度領域では低応力で大変形が可能であることから、工業上に利用が検討されている。 - (2)熱インプリント:
熱可塑性樹脂やガラス等を用いて、加熱による軟化を利用してパターンを有する金型を押し付けて行なう転写加工。 - (3)磁気記録媒体:
磁性体の磁化パターンを用いてデータを記録または記憶させるための電子媒体。 - (4)テラビット:
デジタルコンピュータが扱うデータの最小単位をビットと呼び、これに国際単位系(SI)で1012倍(1兆)を示す接頭辞をつけて、1兆ビットを1テラビット(Tbと表記する)と表す。 - (5)ナノ:
国際単位系(SI)で10-9倍(10億分の1)を示す接頭辞。長さを示す単位であるメートルの語頭につけてナノメートル等として表記され、10億分の1メートルを表す。このような小さなレベルの技術をナノテクノロジー、機械をナノマシン等とも使われる。 - (6)パターンドメディア:
磁気情報を記録する磁性ドットが各々孤立し、人工的に規則正しく並べられた磁気記録媒体。ディスクリートトラック方式の発展型ともいえ、高記録密度化の障害となる磁性ドット同士の反発や熱揺らぎに強く、1Tb/in2以上の記録密度を実現できる次世代の磁気記録方式として期待されている。 - (7)粘性流動加工:
(金属ガラスの項を参照)金属ガラスは、ガラス遷移を発現するガラス遷移温度以上で固体から過冷却液体状態に遷移し粘性が低下する。この温度領域での粘性流動を利用した加工方法を粘性流動加工と呼ぶ。物理的にはガラス細工と同様である。 - (8)記録密度:
単位当たりの情報量。特に、磁気記録の場合面積当たりの情報量を指し、面記録密度とも表現される。1平方インチ当たりの磁気ビットの個数で表される。 - (9)ドット径、ドットピッチ:
パターンドメディアを用いる磁気記録において、磁気情報を構成する最小単位を磁性ドットと呼び、このドットの径を磁性ドット径、磁性ドットの周期性をドットピッチと呼ぶ。 - (10)Gb:
上記テラビットを参照。1000Gbは1Tbに等しい。 - (11)面内磁気記録:
ハードディスクなどに長年用いられてきた磁気記録方式で、磁気記録層を媒体表面に対して水平に磁化して磁気記録を行なう方法。隣接する磁化の反発や熱揺らぎによる信号劣化の問題があり、高記録密度化が難しくなっている。 - (12)垂直磁気記録:
面内磁気記録に対して、磁気記録層を媒体表面に垂直に磁化して磁気記録を行なう方法。1975年に東北大学 岩崎教授により提案された。隣接磁性ドットの反発がないため、高記録密度化が可能。現在は、連続媒体(連続磁性膜)方式が一般的。 - (13)ディスクリートトラック方式:
連続媒体(連続磁性膜)方式の垂直磁気記録と異なり、磁性層にパターニング加工し隣接トラック間を分離した磁気記録方式。連続媒体方式垂直磁気記録に比べ、約30%増の記録密度が達成可能といわれる。記録領域がトラック毎に半径方向で孤立化していることから、磁気ヘッドによる磁気記録が容易になり、再生時に隣接トラックの雑音が混入し難くい特長がある。 - (14)熱揺らぎ:
磁性体粒子の体積が小さくなると、熱エネルギーに比べて磁気エネルギーの比率が低下し、温度の影響で記録磁化が変化あるいは消失してしまう現象。 - (15)スパッタ:
金属ターゲットの表面にイオンを高速で衝突させると、金属表面の原子がはじき飛ばされる現象。はじき飛ばされた原子を基板上に堆積させることで薄膜を作製する方法をスパッタリングと呼ぶ。 - (16)ナノホール:
元来はナノメートルレベルの穴。ハードディスクでは、アルミニウムの鏡面を陽極酸化することで酸化アルミニウム皮膜をつくり、この酸化皮膜にあいた比較的規則正しい穴(アルミナ・ナノホール)を利用したパターンドメディア開発が積極的に行なわれている。 - (17)イオン注入:
イオン化した原子や分子を加速し、固体に注入する方法で、半導体製造等に活用されている。イオン注入された部分のみが固体内での特性が変化することから、イオン注入で微細パターンを描画し、その後エッチング等で微細パターンを製造することができる。 - (18)集束イオンビームデポジション:
通常、ガリウム(Ga)イオンのビームを電磁的に集束させ試料表面に当てることで表面原子をはじき飛ばす(スパッタリング)加工に対し、特定のガスを供給しながら集束イオンビームを試料表面に当て、供給ガスの分解により試料表面に特定元素を堆積(デポジション)させる蒸着方法。本開発では白金(Pt)を堆積させている。 - (19)ドライエッチング:
反応性のエッチングガス、イオンやラジカルにより材料をエッチングする方法。特に、本開発ではプラズマによりエッチングガスをイオン化やラジカル化してエッチングをする反応性エッチングを用いている。 - (20)単磁区:
強磁性体内部では自発磁化の向きが異なる微小な領域に分割されている。これら分割する境界を磁壁と呼び、磁壁で囲まれた一つの領域を磁区と呼ぶ。磁気ドットでは、ドットの中が分割されておらず、一つの自発磁化方向をもったものを単磁区と呼ぶ。 - (21)磁化反転:
ある方向に磁化した磁性ドットに対し、外部から逆向きの磁場を印加することで磁性ドットが逆方向へ磁化が反転する現象。磁気ドットを磁気記録媒体として利用するために必要な特性。
<備考>
なお、この成果は9月20-25日にブラジル(リオデジャネイロ)で開催される ICAM2009国際会議(11th International Conference on Advanced Materials)にて発表される。

